シアトルぐらしのソフトウェアエンジニア

シアトルで暮らすソフトウェアエンジニアが、海外生活についてお届けします。

アメリカでの車購入テクニック

突然ですが、車を購入することにしました。シアトルはもともと公共交通機関がそこそこあり、LyftUber などと組み合わせれば車無しでも生活できたのですが、COVID-19 のせいでバス、LyftUber ともに利用しづらくなってしまいました。さらには海外旅行はおろか、州をまたいだ移動もしづらくなってしまい、ワシントン州のアウトドアをフルに楽しむためにも車が必要だと思いました。

この記事では私がどのように車を選び、価格交渉を行ったかという経験をまとめます。

日本での新車購入との違い

はじめに、日本で購入した場合と「ここは違うな」と思った点を列挙しておきます。

  • 7割程度の人はディーラーの在庫から選ぶ
  • その場合は即納。仮ナンバーでその日に乗って帰れる
  • メーカーへのカスタムオーダーを頼むこともできるが、日本で生産される日本車の場合、海を渡るので納期が最低数ヶ月かかる。また、ディーラーも在庫が処分できないため割高。

車種を選ぶ

車に詳しい方であれば大まかにどんな車種が欲しいか、というのがわかっていると思いますが、私はそうではなかったので、どの車種が自分にあっているのかを探す必要がありました。

自分が必要なものを考える

必要な車は家族構成、使いみち、住む地域などによって変わってくると思います。私の場合は

  • 家族2名で1台の車を共有
  • 今の所通勤では使わず、買い物やドライブ、アウトドアがメイン
  • 山に行くしたまに雪が降るので、四駆があると良い
  • 最新の安全装備が揃っているものがほしい
  • 携帯が Android なので Android Auto に対応していればなお良し

という感じで、要件を考えました。新車でも中古でも良かったのですが、最後の2つの項目がネックで、どうしても年式の新しいものになってしまうことから、新車を選ぶことにしました。

全体的な選択肢を見る

まず、Consumer Reports というサイトがメーカーとは独立に、様々な車をテストしてレビューを書いていて、非常に参考になります。信頼性の評価も Consumer Reports のメンバーに送ったアンケートの結果で、壊れやすさを点数にして出してくれています。私は SUV かセダンが欲しかったので、それぞれについて小型から中型のサイズでおすすめされているものを探しました。

 

www.consumerreports.org

なお、 Consumer Reports は有料のサイトですが、シアトル市立図書館の図書カードを持っていれば無料で見ることができます。

www.spl.org

また、Consumer Reports 以外にもレビューサイトがあります。

安全性の評価を調べる

最近の車は過去に比べると比較的安全に作られていますが、それでも第三者の評価機関によるデータを見ることは重要だと思います。アメリカで一番良く参考にされているのは、IIHS (Insurance Institute for Highway Safety) によるものでしょう。

www.iihs.org

このサイトで "Top Safety Pick+" または "Top Safety Pick" と書いてあるものであれば、最新の安全基準を比較的高い水準で満たしていると言えます。

また、欧州で発売されている車種に限りますが、EURO NCAP (European New Car Assessment Programme) のレーティングも参考になります。

www.euroncap.com

ここでも5つ星を取っていれば、欧州でも高い評価をされていることになります。

試乗する

いくつか候補が絞れたら、試乗の予約を取りましょう。現在 COVID-19 に関連して、ディーラー係員が同乗しての試乗を行っておらず、その場合しばしば自動車保険に加入していることを求められるようです。行ってから乗れないと残念なので、電話で確認すると良いでしょう。私は特別に窓を開けた状態で同乗してもらったり、保険が不要なことを確認したり、またディーラーの敷地内で少し動かさせてもらうなどの交渉を行いました。

試乗の予約は電話が一番早いですが、ディーラーの Web サイトの "schedule test drive" のようなフォームやボタンから予約を取ることも可能です。このときに価格の話になるかもしれませんが、「まだ車種を絞っている段階で、すぐには決められない」と言うと特に問題ないと思います。また細かいグレード(英語では trim と言います)の違いが気になる場合には、ディーラーの車庫に在庫があればすべて見せてもらえます。

電話では "Hi, how are you? I'd like to schedule a test drive for the 車種名" のように説明すれば、グレードの確認、個人情報、日時の設定に進めます。

試乗はとても大切だと思います。私は最初レビューサイトを参考に Mazda CX-5 を第一候補に考えていたのですが、試乗した結果候補から外れることになりました。

価格を詰めていく

レビューサイトの情報や試乗での感触を経て車種やグレード、オプションがある程度絞れたら、いよいよ価格を詰めていきます。

相場を知る

いくら評価がよくても値段が合わないと購入できませんから、相場を確認します。新車の実勢価格であれば Kelley Blue Book の Fair Market Range が参考になるでしょう。車種とオプションを入力するとこのようなグラフが表示されます。

f:id:Yuryu:20200726162343p:plain

Kelley Blue Book Fair Market Range

この緑の価格帯に入っていれば概ね良い買い物と言えるのではないでしょうか。ここで出てくる2つのキーワード、 Invoice (インボイス価格) と MSRP (メーカー希望小売価格) はどちらも重要で、ディーラーとの価格交渉でも頻出です。

Invoice はディーラーへの納入価格です。MSPR はメーカー希望小売価格で、Webサイトなどで確認できる定価です。通常、よほどの人気車種を除いてMSRPを上回ることはなく、事実上 Invoice あたりでの攻防戦になります。

Invoice を下回ることは実際に良くあり、私の場合もインボイス価格から $1,000 引きぐらいの価格を提示されました。ディーラーは別にリベートやインセンティブで利益を出しているので、こういうことができるようです。

この Invoice 価格の確認方法ですが、この Kelley Blue Book も一つですが、 Costco Auto Program がそれぞれのオプションも含めて MSRP と Invoice を一覧で確認できるので非常に便利です。

実際に自分の地域の販売価格は TrueCar などのサイトで一斉に見積もりが出せます。そして、車種、グレード、オプション、色などを指定して実際にその地域で販売された価格を見ることができます。これでディーラーが出してきたものが実際にどのぐらいのものなのかを見ることができます。

www.truecar.com

f:id:Yuryu:20200726163311p:plain

TrueCar の価格表示

もちろんここで提示されている価格帯の下に近づけば近づくほど諦めるものも多くなります。価格と希望はトレードオフです。例えば次のような項目が融通が効けば、選択肢が増えるでしょう。

  • 納期。一番大事です。今すぐ欲しいのか、数ヶ月待てるのかで全然違います。
  • オプション
  • 車種。例えば私が買った時期のシアトルでは、SUVは人気ですがセダンは比較的潤沢に在庫がありました。

見積もりを取る

欲しい車の候補が絞れたらいよいよ見積もりです。完全に一つに絞る必要はなくて、webに書いてある価格と実際に出てくる価格は結構違うので、気になる車種をいくつか聞いてみましょう。その際に、きちんと価格比較できるように次の点に注意しましょう。

  • 車種、グレード、色
  • どのようなオプションが入っているか
  • Destination charge (輸送費) は含まれているのか
  • この見積もりに含まれない諸経費はなにか

特に車の仕様を確認するには、invoice または window sticker を出してもらうのが良いでしょう。メールでコピーを送ってくれるはずです。また、前述の Costo Auto Program で MSRP が一致すれば正しいオプションの組み合わせである可能性が高いでしょう。

 見積もりは TrueCar である程度一括で取得できます。ただすべて網羅してくれるわけではないので、見積もりが出てこなかったディーラーについては web フォームから見積もりをお願いしましょう。その際、少し離れていてもいいので 50km 圏内ぐらいにあるディーラーで見積もりを出してもらっておくと良いでしょう。実際に行くのは大変でも、ネットで見積もりを出してもし安い値段が出てくれば交渉材料に使うことができます。また、現在は COVID-19 のために、家まで納車しに来てもらうというのがお願いしやすい時期でもあります。

ここから価格交渉が始まります。私の経験ではある程度底値に近いものを出してくるディーラーと、そこからまだ$1,000以上の値引き余地があるディーラーに分かれました。4,5件のディーラーから見積もりをもらうころには、ある程度リーズナブルな価格が見えると思います。

見積もりが出てきたら、交渉に備えてスプレッドシートで管理すると良いでしょう。私は次のような簡単なスプレッドシートを作っていました。左端は割愛していますが、ディーラー名が入ります。ちょっとわかりづらいですが、lowest は touring trim の最安基準、premium は limited から安くなる金額が入っています。

f:id:Yuryu:20200726191051p:plain

見積もり管理スプレッドシートの例

値引き交渉をする

完全に自分のほしい構成と一致する在庫を持っているところに、「ぜひ買いたいと思っているのですが、もう少し安くなりませんか?」または「XXXドルならばすぐに書いたいと思っているのですが。」と聞いてみましょう。自分から価格を持ちかける場合には、その価格が高すぎないように注意しましょう。提示した価格より下がることはありません。低すぎる価格を提示するのも心象を損ねる可能性がありますが、Kelley Blue Book の Fair Market Range 下限ぐらいであればそんなに失礼にはならないんじゃないかと思います。または、良い対抗見積もりが少し遠くのディーラーで出ていてその値段に納得している場合は「XXXドルという見積もりが他で出ているのですが、そちらのディーラーが最寄りですしぜひそちらから買いたいと思っています。もちろん買ってからのメンテナンスもお願いしたいと考えています。それでお願いできませんか?」というようなお願いの仕方もあります。

もし購入時期がある程度自由が効いたり、不人気車種でも良いというような場合であれば時間をかけて交渉していくことができたかもしれませんが、私の場合は残念ながら「今年の夏を SUV でドライブして楽しみたい」「一番気に入った SUV の車種がいい」という感じで、あまり交渉の余地が無いという感じでした。特にいまシアトル近郊では SUV が飛ぶように売れていて、見積もりをとったのに数日後に電話すると「売れてしまいました」ということが1週間で2回ありました。なので、そこまで値引きせずとも売れてしまう現実があります。

また、重要なのは乗り出し価格(out the door price)です。これを聞くためには住所などの情報が必要なので、候補がもう少し減ったところで乗り出し価格の話もしましょう。

ディーラーによってはメーカーオプションとは別の余分なオプションが付いてきます。例えば盗難防止ステッカー、窓ガラスの保護フィルムなどです。欲しいものであればそのままでもかまいませんが、割高ですし不要なものがほとんどなので、外してもらうように言いましょう。

 ディーラーの営業はその日に商談をまとめるように畳み掛けてきますが、一度帰って比較するのが大事です。必ず複数見てからにしましょう。

現金払いとローン

私はクレジットスコアがあまり良くなかったので現金一括払いでした。担当営業に必要なものを確認したところ、個人小切手で良いと言われたので小切手帳を持参しました。ディーラーによっては casher's check を要求するところがあると思いますので、確認しましょう。

現金一括で買えない場合はディーラーのローン、または地元金融機関のローンを使う手があります。ディーラーのゼロ金利ローンが使えるならばそれもお得ですが、だめな場合は必ず地元の金融機関で金利を確かめて、可能であればpre-approvalを取得してから臨みましょう。

ローンを使う場合でも必ず支払総額を比較しましょう。ディーラーの営業は「月いくらいくら」という話をしたがりますが、それは分割回数を増やして総額を上げるテクニックです。金利も込みの支払総額に集中しましょう。

駐車場

ワシントン州には車庫証明はありませんが、特にシアトル中心部は無料で路上駐車できないので、止める場所の確認をしておきましょう。私は買う前にアパートの管理人に駐車場が空いているかと、初月が日割り計算になるかを確認しておきました。

駐車場の手続きに数日かかるので、それまでは近くの道路に路上駐車することにしました。

実際の購入の流れ

買う車とお店が決まったら、担当営業に連絡してアポイントメントを取ります。取り置きなどはしてくれないので、「希望した車種の、この色の、このオプションで購入したい。アポイントをお願いします」と言ってディーラーに行って手続きすることになります。その日に乗って帰ることになるので、家族と2人でカーシェアを借りて行って、帰りに一人ずつ乗って帰ってくることにしました。

購入して乗って帰るには自動車保険が必要です。事前に見積もりサイトでいくつか価格を出しておきましょう。私はディーラーで購入が確定したときにインターネットでGEICOの保険を申し込みました。他よりかなり安かったです。州によって必要な保険内容が違うので、別途調査が必要です。

私が行ったときにはすでに洗車済みの車がディーラーの玄関に止めてあり、それを最終確認(傷や仕様など)して、手続きに進みました。私の担当営業は特にオプションやパッケージを勧めてくることもなく、3年間75ドルのSubaru Starlinkのパッケージ(リモートで制御ができるネットワーク機能)だけを申し込みました。

実際の購入手続きは担当営業ではなく、ファイナンスの担当者になります。提示された書類を確認しながらサインしていきます。最終的に金額の書いた小切手を渡したら手続き終了です。鍵が渡され、乗って帰ります。

購入したあと

ナンバープレートは仮ナンバーが普通のコピー用紙に印刷されたものがリアガラスに貼られています。実際のナンバーはDOLの手続きが終わるまでだいたい1ヶ月かかり、発行され次第ディーラーに郵送されます。ディーラーから電話がかかってきて、さらにそこから自宅に郵送され、自分たちで本ナンバーをつけることになりました。

シアトル周辺にいる場合は有料道路の料金支払いサービス Good To Go! に登録すると、SR 520の橋、SR 99のトンネルはじめ有料道路が安く通れます。私は2人で乗ることが多いので Flex Pass をお願いしました。

ワシントン州の州立公園に入り放題の Discover Pass はかなりお得ですので、公園に行くなどアウトドアを考えている場合はネットで注文しておくと便利です。最初の2週間はプリンタで印刷できる仮のパスが使え、その後本パスが送られてきます。

もしロードトリップをする場合は、万一に備えロードサービスを検討しましょう。クレジットカードに付帯してくる場合もありますが、牽引できる距離に制限があります。アメリカのJAFに相当する AAA に入っておくと、プランにもよりますが200マイルまで無料で対応してくれます。

アメリカのガソリンスタンドは無料でタイヤの空気圧調整ができないところが多く、空気圧計があると重宝します。最近の車であれば空気圧センサーがついていますが、安いものでも一つあると安心です。ネット通販で10ドル程度からデジタル式のものが購入できます。空気圧はコストコの会員であればコストコで無料で調節してくれる場合が多いようです。

ひどかったディーラーの例

参考までに、「こういう状態でそのまま買ってはいけない」例を出します。隣街の日系自動車メーカーのディーラーに試乗に行きました。対応は問題なかったのですが、試乗後「いくらぐらいか見積もりをお願いします」と聞くと、出てきたのが不要なオプション(ホイールナット、ガラスフイルムなど)、追加保証、など全部込みで相場+80万円ぐらいの価格を見積書に乗せてきました。

第一候補ではなかったので、「わかりました。他も検討するので失礼します」と立ち去ろうとすると、「いくらなら今日乗って帰りますか?」と引っ張られたり、「次の試乗はどのメーカーですか?ここにもその車種がありますよ」などと頼んでもいない中古車の試乗をさせられそうになったりしました。断固として断り続けると、相手はマネージャーを引っ張り出してきて、私はマネージャーに「大きなコミットメントで、長いおつきあいになると思うのでよくよく検討させてください。今買うことはできません。」とはっきり言って、退出してきました。

よくあるディーラーの手をフル活用してきた感じでした。オプションによる価格上乗せ、ローン分割払いによる負担額への錯覚、「いくらなら買いますか?」とこちらに価格を言わせる、などは典型的な手法です。まず KBB や TrueCar で調べた相場を意識して、その調査した価格よりあまりに外れた価格を出してくるようであればそのまま立ち去ることが大事です。焦って価格を言ってしまうのはよくありません。Consumer Reports の次の記事などを読んで、予習しておくことが重要です。

www.consumerreports.org

大変高い買い物で、考えることも無数にありますが、その後山へドライブに出かけたり大活躍です。買って正解でした。みなさまも幸運を祈ります。