シアトルでの人種差別抗議活動と自治区の様子
前回のコロナウイルスとシアトルの記事を書いてすぐ、ジョージ・フロイドさんが警察官に殺され、それを発端とする抗議活動が全米に広がりました。ここシアトルも例外ではなく、たいへん大きな抗議活動が起こり、それに便乗した暴動も発生してしまいました。
警察力と人種差別
ここまで大きな話になったのには、黒人に対する構造的人種差別と、アメリカの警察官の暴力性が混ざりあって大きなうねりになったという理由があります。アメリカでは、毎年1,100人程度が警察官に殺されているという推計があります。日本では公務執行中の警察官が市民を殺害するというのはほぼ起こっていないようですから、ここに大きな隔たりがあります。もちろん殺されているのは黒人だけではありませんが、人口の13%を占める中、殺害される割合としては31%を占め、さらに特に攻撃もしていないのに殺される人の中では39%を占めています。他の人種の数倍の確率です。
さらに、ニューヨークの"Stop and frisk"(ランダムな職務質問と路上身体検査)に代表されるように、特に根拠もなく突然警察官に突然引き止められ、手荒に検査をされたり、時には逮捕されるということがあります。年間60万件前後の路上身体検査が行われた2010年前後には、対象となった人の実に87%が黒人とラティーノ(ラティーナ)で占められました。一方白人は10%程度です。その一方で人口比では(ヒスパニックを除く)白人が33%、黒人とラティーノが53%です。特に若い黒人男性やラティーノが対象となりやすいという統計があります。つまり、人種差別的な先入観に基づく政策が公然と行われているのです。
今回の抗議活動と警察との衝突
今回の抗議活動でも警察とデモ隊との衝突が大変多く発生しました。次のVOXの記事が多くをまとめています。中には見るのが辛いものもあります。アメリカでは抗議活動を行うことは憲法修正第一条に認められた市民の権利だという認識があり、平和的な活動を暴力で押さえつけようとしているとして大変問題になりました。
シアトルでの抗議活動
最近、シアトルで Capitol Hill Autonomous Zone (キャピトル・ヒル自治区)というものができたというニュースを見たことがあるかもしれません。
この Capitol Hill というエリアは、おしゃれな飲食店が立ち並ぶシアトルでも人気のエリアで、特に若者に人気です。週末にはファーマーズマーケットも開催され、私もよくでかけていました。
シアトルでの抗議活動(デモ)は、一部を除き平和的に行われていました。ところが、警察がデモ隊に向けて催涙ガスやペッパースプレー、閃光弾を発射するということが相次ぎました。Capitol Hill でもデモが盛んに行われ、警察との衝突も多かった場所です。6月1日には取材中のメディアが警察に閃光弾を撃たれるという事件も発生しています。
WATCH: @jolingkent is hit with fireworks during live broadcast as protests in Seattle, Washington, quickly escalate. pic.twitter.com/0KdpGXzhH6
— MSNBC (@MSNBC) June 2, 2020
6月5日にはシアトル市長が催涙ガスの使用を禁止する命令を出します。ところが、この命令を無視した形で、数日後に再び催涙ガスが使用されてしまいます。
Seattle police have completely covered the street with gas pic.twitter.com/9J9aSY81D1
— jordan (@JordanUhl) June 8, 2020
これに対抗してさらに抗議は続きます。ちょうどCapitol Hillには東分署(East Precinct)があり、そこでの抗議も激化しました。政治家もデモに参加し、警察への批判は続きます。そして数日後... 正確な理由は不明のまま、警察は東分署からの撤退を行いました。
こうして、Capitol Hill は警察の暴力に対する一つの答えとして、象徴的な場所となりました。
キャピトル・ヒル自治区とその反応
この「自治区」はどうやら単一の組織が作り上げたものではなく、自然発生的に地域の人間が作り出したもののようです。飲食店や商店は無料の水や軽食を用意したり、人々が自主的に日用品を寄贈して譲り合うなどの光景が見られています。中心となる交差点では人々が思い思いにスピーチを行って、人が集まっています。
Much is free — speech, snacks, movies — in the newly named Capitol Hill Autonomous Zone, a protest society born from the demonstrations that pushed the Seattle Police Department out of its East Precinct building.
— The Seattle Times (@seattletimes) June 11, 2020
Read more about the CHAZ: https://t.co/LJYypUnNnV pic.twitter.com/VZxPXnKKrD
また夜には映画鑑賞会が開かれたり、まるでお祭りのようです。実際、そういう感じなんだと思います。
Movie night and more in the Capitol Hill Autonomous Zone. They screened "13th," the 2016 doc film by @ava #CHAZ #capitolhillautonomouszone #georgefloyd #blacklivesmatter More pics here: https://t.co/2BGCyAs4x6 pic.twitter.com/ZTsWPZ1jgI
— David Ryder (@davidmryder) June 10, 2020
最近では Black Lives Matter のストリートペイントも完成しました。
A masterpiece was created in the Capitol Hill Autonomous Zone today #BlackLivesMatter #CHAZ pic.twitter.com/augbcA6Cqg
— Kyle Kotajarvi (@kylekotajarvi) June 12, 2020
私はまだここに足を踏み入れていません。ですが、近くに住んでいる同僚の話を聞くと、平和的でシアトルらしさのある抗議活動になっているとのことです。参加している人たちの中にもこの状態が長く続くとは思っていないし、これが最終的な解決にはなっていないことは承知している人もいるようです。その一方で悪のりする人が出てきたり、これに便乗した騒ぎも発生はしているようです。
この状態を好ましく思わない人たちがいます。そうですね、トランプ大統領とその支持者です。
ワシントン州知事とシアトル市長に対して Twitter 上で罵り、対する知事と市長も応戦します。
軍隊を派遣して鎮圧することもちらつかせますが、州知事が拒否します。アメリカでは、州知事の同意なしに大統領が軍隊を派遣することはできないようになっています。そして、様々なメディアで「商店がみかじめ料を請求されている」「警察が立ち入れない」などのでまかせが流れています。Fox News は加工した写真やミネアポリスの写真を使ってミスリーディングな記事を掲載し、世論を誘導しようとしています。
このあとどうなっていくのかはわかりません。現状は警察との暴力的な衝突よりは良いとは思いますが、持続可能だとは思いませんし、自治区の要求事項も実現可能ではないと批判されています。本来であれば大統領を始めとしたリーダーが落とし所を見つけていくのですが、その素振りも見せません。出口の見えないことが一番困りますね。
シアトルのそれ以外の地区
今日は大規模なサイレントマーチ(静かな抗議活動)が行われて、デモに参加するために早めに閉店した商店もありました。
Seattle Silent March #BLMSeattle #BlackLivesMatter pic.twitter.com/S3BInSjmeC
— Pacificsilver (@pacificsilver) June 12, 2020
この動画でわかるように、声を立てずただ静かに抗議をしています。
こういったことはあるものの、それ以外の日常生活には変わりはありません。今日はスーパーに買い物に行ってきましたが、COVID-19のために人通りが少ない以外は普段どおりです。Capitol Hill までは車で10分ほどの距離のところに住んでいますが、別世界です。
シアトル市民が全員抗議活動に参加しているわけではないですし、全員がその手法に賛同しているわけでもありません。また、抗議活動も単一の組織が仕切っているわけではなく、それぞれ個別に連携を取りながら行われています。ですが、多くのシアトル市民は人種差別がなく、誰もが警察の暴力を受けずに過ごせる日が来ることを願っているのではないでしょうか。